「35歳で完全FIRE」という夢が崩れた日
Aさんが最初にFIREという概念に出会ったのは、26歳のとき。当時は結婚したばかりで、子どももなく、家賃は妻と折半。手取り28万円のうち毎月10万円を積み立てられる環境だった。「このペースで行けば35歳で完全リタイアも夢じゃない」。そんな計算をしていた。
転機は28歳の長男誕生と、30歳での住宅購入だ。保育園の費用が月4〜5万円、住宅ローンの返済が月9万円。合わせて14万円近くが固定費として積み上がった。当然、月10万円の積み立ては不可能になり、一時は月3万円にまで落とした。
「35歳でフルFIREは諦めました。でもそこで投資をやめなかったのが、今につながっているんだと思います。とにかく金額は減らしてでも続けるを徹底した」
目標をサイドFIREに切り替えたのはこの頃だ。「完全リタイアではなく、働く量を自分でコントロールできる状態を目指す」という方向に頭が切り替わった。目標資産は3,000万円。4%取り崩しで年120万円、そこにフリーランスで月15〜20万円を稼げれば、家族4人で生活できる計算だ。
12年間の資産推移グラフ
下のグラフはAさんが26歳から38歳にかけて毎年末に記録してきた総資産の推移です。現金、国内株式、外国株式インデックスファンドの評価額を合計したもので、住宅評価額やローン残高は含んでいません。
※金融資産(現金+投資評価額)のみ。住宅関連は含まない
グラフを見ると、30〜33歳にかけて伸びが明らかに鈍化していることがわかります。住宅購入と育児費用の山場が重なったこの時期、積立額は月3〜5万円程度でした。それでも資産がゼロになることはなく、着実にプラスを維持し続けました。
大きく加速したのは34歳から。息子が小学校に入り、保育園費用がなくなった。同時にフリーランス案件を週末限定で受注し始め、その収入を全額投資に充てた。35歳時点で資産1,560万円。37歳で2,500万円を超え、「あとは時間の問題」という感覚があったとAさんは言う。
年代別:何に投資し、どれだけ積み立てたか
26〜28歳:基礎を作った「全力インデックス」の時代
この時期、Aさんが選んだのはeMAXIS Slim全世界株式(オルカン)一本でした。当時はつみたてNISAが始まる前だったため、特定口座での積み立てです。毎月10万円、ボーナス月はプラス10〜15万円を追加。生活費を徹底的に見直し、外食を月2回まで制限。スマホも格安SIMに切り替えた。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 月収(手取り) | 28万円 |
| 月間積立額 | 10万円(ボーナス時は+15万円) |
| 貯蓄率 | 約36〜40% |
| 主な投資先 | eMAXIS Slim全世界株式(特定口座) |
| 期末資産(28歳末) | 約370万円 |
29〜33歳:試練の「出費増大期」を乗り越えた方法
住宅ローン(月9万円)と保育費(月4万5,000円)が重なる最もきつい時期。手取りは転職で34万円に上がったものの、固定費が増えすぎて積立は月3〜5万円が限界だった。
この時期に大切にしたルールは「積立をやめない」こと。金額は3万円まで落としても、口座引き落としの仕組みを止めなかった。結果的にこの期間は資産が年に100〜200万円しか増えなかったが、それでも累積積立額と複利が効いていた。
「3万円って、コーヒー1日2杯を断った額とほぼ同じじゃないですか。それくらいの金額でも、続けることに意味があると信じていた。実際その通りでした」
また、この時期にiDeCoを満額(月23,000円)にしたのも賢い判断でした。所得控除で住民税・所得税が年4〜6万円軽減され、実質的な積立負担が減りました。
34〜38歳:複利が「目に見える」加速期
34歳を境に状況は一変します。保育費がなくなり、月の余剰資金が一気に増加。フリーランスの週末案件(インフラ系の設計業務)が軌道に乗り、月3〜8万円の副収入が生まれ始めました。このタイミングでNISA成長投資枠を使い、S&P500連動ETF(VOO)も積み立て開始。
| 年齢 | 年末総資産 | 前年比増加額 | メモ |
|---|---|---|---|
| 26歳末 | 120万円 | — | 投資開始年 |
| 28歳末 | 370万円 | +250万円 | 新婚・積立全開時代 |
| 30歳末 | 580万円 | +210万円 | 住宅購入・積立減額 |
| 32歳末 | 780万円 | +200万円 | 育児費ピーク |
| 34歳末 | 1,200万円 | +420万円 | 副業開始・保育費消滅 |
| 36歳末 | 1,980万円 | +780万円 | 複利加速・副業軌道に |
| 38歳末 | 3,200万円 | +1,220万円 | サイドFIRE達成 |
ポイント:36〜38歳の2年間だけで資産が1,220万円増加しています。これは複利の効果が顕在化した証拠。元本が大きくなると、年利7%の絶対額が「自分の積立額」を超え始めます。
達成後のリアル:サイドFIREの「ある1日」
週5日のフルタイム正社員から週3日のフリーランスへ転向して8ヶ月が経ちました。Aさんに達成後の平日の過ごし方を聞くと、「最初の1ヶ月は何をすればいいかわからなかった」と苦笑いした。
「FIRE後のリアル」は想像とどう違ったか
想像より良かったこと:時間の質の変化
サラリーマン時代の休日は「疲れを回復するための時間」でした。今の休みは「やりたいことをする時間」。同じ「休日」という言葉でも、中身がまったく違います。以前は日曜夜に「明日からまた…」という憂鬱があった。今はそれがない。この差は想定以上に大きかったとAさんは言います。
想像より大変だったこと:「暇」への対処
最初の1ヶ月は正直しんどかったそうです。「会社というコミュニティ」を失うのは、思ったより喪失感があった。同僚との日常会話、組織に属している安心感。そういったものが突然消えたとき、心にぽっかり穴が開く感覚がありました。
「最初の3週間は、昼間に外出するのが恥ずかしかった。平日の昼間に公園にいる自分を、近所の人にどう思われるか気にしてしまって。でも1ヶ月もすると慣れます(笑)」
想像と同じだったこと:お金の不安は消えない
「FIRE後はお金の不安がなくなる」と思っていたそうですが、そんなことはありませんでした。ただ、不安の種類が変わりました。「会社をクビになったらどうしよう」という漠然とした不安が、「株価が30%下がったとき資産がいくらになるか」という計算可能な不安に変わった。数字で把握できる不安は、対処ができます。
Aさんは月1回だけFireNaviのPortfolioアプリで資産確認をしています。「毎日見ると動揺するので月1回と決めた。それでも3,200万円の4%が80万円という計算さえ頭に入っていれば、余程のことがない限り生活は成立する。その確認が月1回あれば十分」
Aさんが「あのときこうすれば良かった」と思うこと
- 貯蓄率を早い段階で50%に上げていれば、3年早く達成できたと振り返る。30代前半の「もっと稼いでから投資しよう」という発想は危険。今の収入で最大化するべきだった。
- 住宅購入のタイミングを2〜3年遅らせていれば、積立の中断幅を抑えられた。持ち家へのこだわりを早めに手放していれば計算が楽だった。
- フリーランスへの転向を「もう少し資産が増えてから」と1年半引き延ばした。達成後に動くのではなく、達成前から副業で実績を積むべきだった。スキルは使っていないと劣化する。
- iDeCoの開始が遅かった(30歳から)。26歳の投資開始時に同時に始めていれば、節税効果で積立効率が格段に上がった。
これからサイドFIREを目指す人へ
Aさんに最後に聞いたのは、「あなたのような状況でない、年収が低い人や30代後半から始める人はどうすべきか」という質問でした。
「いつ始めてもいい、じゃなくて、今日始めるしかないと思います。私も36歳まで複利の実感がなかった。でも36〜38歳の2年間で1,200万円増えた。これは26〜35歳の9年間の積み上げがあって初めてできたことです。だから今すぐ、月1万円からでいいので始めてほしい」
Aさんが使い続けているのは、シンプルなインデックス積み立てとiDeCo、そしてポートフォリオの月1回チェック。それだけです。特別な株式選択スキルも、複雑な資産運用も必要ありませんでした。
あなたのサイドFIRE達成年数をシミュレーション
Aさんのケースは「月10万円積立・年利7%想定・12年継続」という戦略でした。あなたの条件では何年でサイドFIREに届くか、FireNaviのシミュレーターで無料で試算できます。初期資産・月積立額・想定利回りを入力するだけで、グラフ付きで目標達成年数が一目でわかります。
※本記事の体験談はFireNavi編集部が構成したケーススタディです。実在の個人・法人とは一切関係ありません。投資にはリスクが伴います。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。