PER・PBR・ROEを理解したら、次に押さえたいのがROA・自己資本比率・EV/EBITDAの3指標だ。ROEだけを見ていると「借金を増やして見かけの利益率を上げている企業」を見抜けない。この記事ではその弱点を補う上級指標を、計算式・目安・実際の使い方まで解説する。
3つの指標の概要:何を見る指標か
| 指標 | 何がわかるか | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| ROA | 総資産(借金含む)に対する利益効率 | 「資産をどれだけ効率よく稼ぎに変えたか」 |
| 自己資本比率 | 総資産に対する自己資本(返済不要のお金)の割合 | 「倒産しにくさ・財務の安定度」 |
| EV/EBITDA | 負債も含めた企業価値に対する本業の稼ぐ力 | 「M&Aで使われる、会計方針に左右されにくい指標」 |
ROE(自己資本利益率)は「自己資本に対する利益」しか見ないため、借金(負債)を増やして自己資本を相対的に減らせば、実態以上にROEを高く見せることができる。ROAは総資産(負債+自己資本)全体で見るため、この「財務レバレッジのカラクリ」に惑わされにくい。
ROA(総資産利益率):資産全体の稼ぐ力
会社が持つ「全ての資産(借金で買った設備も含む)」を使って、どれだけ効率よく利益を生み出しているかを示す。ROEと違い負債の影響を受けにくいため、企業の「本当の稼ぐ力」を測るのに向いている。
ROAの目安
| ROA水準 | 評価 |
|---|---|
| 10%以上 | 非常に効率的(ITサービス・高収益ビジネスに多い) |
| 5〜10% | 優良水準 |
| 2〜5% | 平均的(製造業などに多い) |
| 2%未満 | 資産効率が低い(設備投資型産業や不振企業) |
製造業・不動産業など設備投資が重い業種はROAが低くなりやすく、ITサービス業のような「資産が軽い」業種はROAが高くなりやすい。異業種間で単純比較するのではなく、同業種内で比較するのが実践的だ。
自己資本比率:倒産しにくさを測る
総資産のうち、返済不要な「自己資本(株主資本)」がどれだけの割合を占めるかを示す。比率が高いほど借金への依存度が低く、不況・業績悪化に対する耐性が高いとされる。
自己資本比率の目安
| 自己資本比率 | 評価 |
|---|---|
| 50%以上 | 非常に安定・無借金経営に近い企業も多い |
| 40〜50% | 健全水準 |
| 20〜40% | 業種による(銀行・不動産など標準的な水準) |
| 20%未満 | 財務レバレッジが高く、金利上昇局面でのリスクに注意 |
銀行・保険業は事業構造上、自己資本比率が低くなるのが一般的(預金・保険料など「他人資本」を活用するビジネスモデルのため)。不動産業もレバレッジを効かせた運用が一般的で比較的低め。業種平均との比較が欠かせない。
EV/EBITDA:M&Aでも使われる企業価値指標
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費
「株主から見た価値」しか測らないPERと違い、EVは負債も加味した「企業全体を丸ごと買うといくらか」という価値を表す。EBITDAは減価償却など会計方針の差の影響を除いた実質的な稼ぐ力。両者を組み合わせることで、負債の多寡や国・会計基準の違いを超えて企業を比較できる。
EV/EBITDAの目安
| EV/EBITDA倍率 | 評価 |
|---|---|
| 6倍以下 | 割安水準 |
| 6〜10倍 | 標準的な水準 |
| 10〜15倍 | 成長期待を織り込んだ水準 |
| 15倍以上 | 高成長株・将来の利益成長を強く期待した水準 |
M&A(企業買収)の実務では、買収対象企業の適正価格を判断する際にPERよりもEV/EBITDAが好んで使われる。負債を多く抱える企業とほぼ無借金の企業を、PERだけで単純比較すると実態を見誤るためだ。
おまけ:PSR(株価売上高倍率)
赤字段階のスタートアップ企業などPERが使えない(利益が出ていない)企業を評価する際に使われるのがPSR(Price to Sales Ratio)だ。
一般的に10倍を超えると割高、1〜3倍程度なら割安〜標準的とされるが、成長率が高いIT企業では10倍を超えても正当化されるケースがある。あくまで補助的な指標として使うのが実践的だ。
ROEとROAの違い・組み合わせ方
| 組み合わせ | 判断できること |
|---|---|
| ROE高い + ROA高い | 本当に効率的に稼いでいる優良企業 |
| ROE高い + ROA低い | 借金(財務レバレッジ)でROEを底上げしている可能性。財務リスクに注意 |
| ROE低い + 自己資本比率高い | 財務は安定しているが、資本を効率的に使えていない可能性 |
この組み合わせが出た場合は自己資本比率を必ず確認しよう。自己資本比率が極端に低い(20%未満など)のにROEだけ高い企業は、借金を積み増して見かけの利益率を演出している可能性がある。金利上昇局面では財務リスクが顕在化しやすい。
業種別の目安一覧
| 業種 | ROA目安 | 自己資本比率目安 | EV/EBITDA目安 |
|---|---|---|---|
| ITサービス・ソフトウェア | 8〜15% | 50%以上 | 10〜20倍 |
| 製造業(自動車・電機) | 2〜6% | 40〜60% | 5〜9倍 |
| 銀行・保険 | 0.5〜1.5% | 5〜15% | 算出しにくい(業態上不向き) |
| 不動産 | 1〜4% | 20〜40% | 10〜15倍 |
| 小売・サービス | 4〜10% | 30〜50% | 6〜10倍 |
インデックス投資が資産形成の中心なら、これらの指標を毎回計算する必要はない。ただし個別株をサテライトとして組み込むなら、ROE単体で判断せず、自己資本比率とセットで「財務の裏付けがあるROEか」を確認する癖をつけると、財務が脆い企業を避けやすくなる。
よくある質問
業種にもよりますが、5%以上あれば優良とされることが多いです。製造業など設備投資が重い業種はROAが低くなりやすく、逆にITサービス業など資産が軽い業種はROAが高くなりやすい傾向があります。同業種内で比較するのが実践的です。
一般的に40%以上あれば財務が健全とされ、50%を超えると非常に安定した企業と評価されます。ただし銀行・不動産など業種特性上、自己資本比率が低くなりやすい業種もあるため、業種平均との比較が必要です。
PERは株主から見た株価の割高・割安を測る指標ですが、EV/EBITDAは負債も含めた企業全体の価値(EV)を、利払い・税金・減価償却前利益(EBITDA)で割った指標です。負債の多寡や会計方針の違いに影響されにくいため、M&Aの際の企業価値評価や、国をまたいだ企業比較でよく使われます。
